[海・秘めたる力](4)「地下海水の幸」マグロ
[海・秘めたる力](4)「地下海水の幸」マグロ(連載)=静岡
2008.01.05 東京朝刊 31頁 写有 (全1,420字)
◆三保で取水 「水槽養殖」研究
駿河湾に突き出た静岡市清水区の三保半島の地下には、粘土や砂利層の下に湾から海水がしみ込んだ層がある。この半島特有の「地下海水」をくみ上げ、魚介類を陸上の水槽で養殖する試みが進んでいる。
東海大海洋学部水産学科教授の秋山信彦さん(46)(水産増殖学)の研究室の水槽でアオリイカや魚たちが泳ぐ。水槽に流れるのは、敷地内の深さ23メートルの井戸から取水した地下海水。塩分は海水とほぼ同じで、水温は年間を通じ17~21度に保たれている。酸素を含まず一般細菌類や大腸菌などが混入しないため、養殖に適している。
「地域ならではの資源を使わない手はない」。同大海洋科学博物館でも利用されていた地下海水に、20年ほど前に着目した。
最近の取り組みが、新興の水産会社「WHA」(焼津市)と共同で研究するクロマグロの陸上養殖だ。
初年度の実験では、体長20センチ(200グラム)の稚魚を5か月かけて55センチ(3・3キロ)に育てたものと、10か月で60センチ(5・5キロ)にしたものを、天然マグロの肉質と比べた。
養殖マグロはうま味成分のたんぱく質や脂質は天然とほぼ同等のうえ、肝臓から検出された有害な水銀やカドミウムの値は天然物の約半分だった。自然界では海中の小魚を食べて蓄積されるが、養殖では餌の小魚を選び、魚粉の人工飼料を改良すればさらに抑えられる可能性がある。地下海水の水質も検査している。
「予想以上の結果だった」。同社専務の山本明人さん(45)は今でこそ胸を張るが、陸上養殖を構想した当初は周囲から一笑に付された。秋山さんと出会って地下海水による飼育方法を知り、共同研究が実現した。
同社は年内にも直径25メートル規模の大型水槽を建設し、事業化に向け踏み出す計画だ。賛同する県内大手スーパーも研究に参加し、養殖マグロの販売に協力を申し出ている。
地下海水による養殖は、マグロ以外の魚介類にも可能性が広がる。
アワビの場合、水温が一定の地下海水では、通年で餌を食べるため成長が安定し、小型であれば早期の出荷が可能になる。同じ水槽でナマコを飼うと、アワビの排せつ物や食べ残しの餌をナマコが掃除し、しかもナマコも出荷できる。
清水商工会議所と地元企業、県内の大学、静岡市が連携する研究会でも、地下海水による陸上養殖の事業化を目指している。
「無駄を極力少なくし循環型の技術を確立したい」と秋山さんは力を込める。海の恩恵を受けながら、環境への負担を減らす陸上養殖の試みは、起業につながる兆しが見え始めている。 読売新聞社

最近のコメント